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東京地方裁判所 昭和53年(ワ)9647号 判決

原告 株式会社望月工務店

右代表者代表取締役 望月富太郎

右訴訟代理人弁護士 原田勇

同 原田裕介

被告 鈴木靖章

右訴訟代理人弁護士 高木新二郎

同 大塚一夫

同 太郎浦勇二

右訴訟復代理人弁護士 巻之内茂

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告

1  次の判決

(一) 被告は、原告に対し、金一三九三万六〇〇〇円及びこれに対する昭和五一年四月一日から支払いずみに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

(二) 訴訟費用は被告の負担とする。

2  仮執行の宣言

二  被告

主文同旨の判決

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  原告は、土木建築の請負等を業とする会社である。

2  原告は、被告との間で、次の(一)(二)の工事請負契約を締結した。

(一) 第一工事

(1) 契約締結年月日 昭和五〇年六月ころ

(2) 工事内容 江東区永代二丁目三七番二四号地上(以下「本件地上」という。)の鉄骨耐火構造工場及び住宅の新築工事

(3) 工事代金

当初、被告が原告に交付した簡単な平面図により概算で算出した金額は金二三六九万六三〇〇円であったが、その後、被告より詳細な設計図が交付されそれに基づいて見積りをすると相当な相違が出ることが明らかとなり、また着工後被告より使用材料及び施行面積の変更の指示があったので、原被告間で、後日実費精算のうえ正式見積請求により決定する旨の合意が成立し、最終見積額(工事代金額)は金三三一六万七〇〇〇円となった。概算見積額と最終見積額(工事代金額)の差異の内容は別紙見積対照表のとおりであり、また主要な工事内容の変更部分は別紙工事内容の変更記載のとおりである。

(4) 代金支払方法

支払日及び支払額の明確な取り決めはなかったが、着工時、中間時、完成後約三分の一づつ支払うこととなっていた。

(二) 第二工事

(1) 契約締結年月日 昭和五一年二月二五日

(2) 工事内容 本件地上所在の木造二階建居宅についての次の改築工事

(ア) 一階の居室(浴室、便所を含む。)台所(ダイニングルーム)を取り壊して防火用耐火板囲いの事務所とガレージにする。

(イ) 隣の工場との間は外部雨仕舞とする。

(ウ) 二階改造、階段取壊し取付け、二階から隣のビルへの塔屋及び階段の設置

(3) 工事代金 金二七六万九〇〇〇円

実費精算とし、完成引渡しと引換えに支払う約であり、実費精算額は、金二七六万九〇〇〇円である。

3  原告は、第一工事については昭和五〇年一二月、第二工事については昭和五一年三月月下旬ころ、それぞれ工事を完成し、被告に引き渡した。

4  被告は、第一工事代金について、次のとおり合計二二〇〇万円を支払った。

(ア) 昭和五〇年一〇月九日 金六〇〇万円

(イ) 同年同月一五日 金一〇〇万円

(ウ) 同年一二月三〇日 金一〇〇〇万円

(エ) 昭和五一年三月二日 金五〇〇万円

第二工事については、被告は全く支払いをしない。

5  よって、原告は、被告に対し、第一工事の代金残額一一一六万七〇〇〇円及び第二工事代金二七六万九〇〇〇円の合計一三九三万六〇〇〇円及びこれに対する弁済期後である昭和五一年四月一日から支払いずみに至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否及び被告の主張

1  認否

(一) 請求原因第1項は認める。

(二) 同第2項中、原告主張のころ本件地上の鉄骨耐火構造工場及び住宅の新築工事(以下「本工事」という。)の請負契約を締結したこと及び同所所在の木造二階建居宅についての改築工事(以下「追加工事」という。)の請負契約を締結したことは認めるが、その余の事実は否認する。

本工事の請負代金は金二一〇〇万円であった。また、追加工事については、契約の時期は昭和五〇年一〇月ころであり、その工事内容は後記被告の主張(二)のとおりであり、その代金は金一〇〇万円であった。

(三) 同第3項中、原告が昭和五〇年一二月本工事を完成し被告が引渡しを受けたこと及び追加工事が完成し被告が引渡しを受けたことは認めるが、その余の事実は否認する。

追加工事の完成引渡は昭和五一年二月中であった。

(四) 同第4項中、被告が原告に対し原告主張の日に合計金二二〇〇万円を支払ったことは認めるが、その余の事実は否認する。右支払金のうち、昭和五〇年一〇月九日の六〇〇万円、同年一二月三一日の一〇〇〇万円、同五一年三月二日の五〇〇万円の合計二一〇〇万円は本工事の代金として支払ったものであり、昭和五〇年一〇月一五日の金一〇〇万円は追加工事代金として支払ったものである。

2  被告の主張

(一) 被告は、訴外株式会社二天門一級建築設計事務所(以下「二天門設計事務所」という。)に、本工事の設計図面を作成させた。そして、訴外通運建設株式会社(以下「通運建設」という。)に右図面を交付して見積書を作成させたところ、その見積金額は金二三八〇万円であった。被告は、友人であった原告会社の工事部長高橋堅造(原告代表者の娘婿)に話をしたところ、高橋は是非やらせて欲しいとのことであったので、右図面と見積書を交付して検討させたところ、金二一〇〇万円でできるとのことであった。そこで、被告は、原告と、昭和五〇年七月ころ、請負代金を金二一〇〇万円として請負契約を締結したものである。工事見積書は、工事完成後相当期間経過した昭和五一年三月一四日に、交付されたものである。

(二) 追加工事の内容は次のとおりである。

(1) 台所と旧事務所を仕切っている壁を取り壊して一つの事務所とした。

新しくできた事務所の床は、台所であった部分は既に貼ってあったプラスタイルをそのまま利用し、旧事務所であった部分は新しくプラスタイルを貼った。壁は余りものの新建材の壁材を貼った。

(2) 風呂場と便所を仕切っている壁を取り壊し、風呂場と便所を撤去して一つの倉庫とした。

なお、便所を取り壊したため、便所の上にあった木造階段(裏側階段)を取り外し階段口をふさいだ。なお、便所の上に二階の台所があったが、階段を取り外したため使えなくなったので補修して使えるようにした。

(3) 居間(四畳半)の床を取ってコンクリートを打ちガレージとした。そのため、もう一つの階段(表側階段)の最下段に接続していた濡縁も撤去し、その部分に踏み台を二段追加した。

(4) 二階から新しい建物の二階のベランダに通じるように屋根に穴をあけてはしご段を取り付け、そのはしご段のまわりを塔屋のように囲った。

第三証拠《省略》

理由

一  請求の原因第1項は当事者間に争いがない。

二  原告と被告との間で昭和五〇年六月ころ本件地上に鉄骨耐火構造の工場及び住宅の新築工事(以下「本件本工事」という。)及び同所所在の木造二階建居宅の改築工事(以下「本件追加工事」という。)の各請負契約が締結されたことは、当事者間に争いがない。

そこで、本件本工事の請負代金及び本件追加工事の請負時期代金について検討する。

1  《証拠省略》によれば、次の事実が認められる。

被告は、昭和五〇年三月ころ、二天門設計事務所に対し、本件本工事の建築の設計並びに建築確認申請及び工場許可申請を依頼した。右建築の設計図及び構造計算書は同年五月半ばころには完成し、被告に交付され、被告は同月一五日右事務所に代金六〇万円を支払った。被告は、右設計図及び構造計算書を通運建設に交付して工事代金の見積りを依頼したところ、通運建設は、右設計図等に基づいて同年六月一六日見積代金を金二三八〇万円とする見積書を作成して被告に交付し、右見積り金額より一割減額した金額で工事を請負ってもよい旨を申し入れた。なお、二天門設計事務所は、同年六月一〇日江東区役所に建築確認及び工場許可の申請をし(このときにはまだ工事施行者は決定していなかった。)、七月三日建設確認及び工場許可を受けた。

2  右1認定の事実に、《証拠省略》を総合すると次の事実を認めることができ、この認定に反する証人高橋堅造の証言は後記4で詳述するように信用することができず、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

(一)  被告は、かねて原告会社の工事部長であり原告会社の代表者の娘婿であった高橋堅造とゴルフ仲間として親しく交際していたが、通運建設から前記見積書の交付を受けた直後たまたまゴルフに行った際、右見積書のことを話したところ、他の仲間からもぜひ高橋に見積書を検討してもらったほうがよいとすすめられたので、同年六月二〇日ころ、右高橋に二天門設計事務所作成の設計図と構造計算書及び通運建設作成の見積書を交付しその内容の検討を依頼した。

(二)  高橋は、七月初めころ、被告に対し、口頭で、社長も入院中で仕事も少ないから、ぜひ原告会社に金二一〇〇万円で請負わせてほしい旨を申し入れ、被告もこれを承諾した。

(三)  本件本工事の建築確認書(設計図及び構造計算書も付属書類として添付されていた。)は、同年七月初めころ二天門設計事務所から被告方に持参され、直ちに原告会社の高橋に交付された。本件地上には、もともと平家建工場とこれに隣接した二階建の事務所兼住居があり、本件本工事は右工場を取り壊し三階建の工場兼住居を建築するものであったが、原告は七月末日ころ右工場の解体に着手し、約一週間位で解体を完了し、八月中旬ころ本工事の基礎工事に着手した。

(四)  基礎工事に着手したころ、被告よりの申し入れで三階の子供部屋を約九〇センチメートル張り出すように設計変更をすることとなったがその面積増は全体の面積からみると僅かであり原告会社の高橋はサービスとして当初の額の範囲内ですることを約した。また、外壁の塗装の色彩、部屋の内装について高橋と被告が話し合ったことはあったが、その際特に価格について話しは出なかった。

(五)  基礎工事の最中、現場事務所がなかったため、取り壊した工場に隣接して建てられていた二階建住居の居間を現場事務所に使うこととなったが、その際、工場の取り壊しにより右二階建住居の屋根及び周囲もいたんでいたので、同建物も改造してはどうかということとなり、一階の居間の床を取り外してコンクリートを打ちガレージとし、台所と旧事務所の壁を取り壊して一つの事務所にし、また、風呂場と便所を壊して倉庫とする等の追加工事を行うこととし、その代金は六〇万円とすることを話し合った。一〇月ころ、右二階建住居に雨漏りがするようになりまた便所の上の流しが使えなくなったため、被告は、右部分の追加工事に早く着手するよう高橋に依頼し、同時に右二階建住居から新築建物の二階ベランダ部分に通じる階段とそれをおおう塔屋を作ることとし、追加工事の代金は、一〇〇万円とすることを約した。そして、追加工事に早く着手してもらうため、被告は、原告に対し、一〇月一五日右追加工事分の代金として金一〇〇万円を支払った。

(六)  本件本工事は一二月末ころにはほぼ完成し、被告は新築建物に引越してきたが、その代金は、一〇月九日六〇〇万円、一二月三一日一〇〇〇万円、昭和五一年三月二日五〇〇万円が支払われた(右日時に右金額の支払いがされたことは当事者間に争がない。)。被告は、確定申告の際の資料とするため原告に見積書等の計算書を持参するよう依頼していたが、昭和五一年三月一四日になって高橋は見積書を持参し工事に予想外の金額がかかった旨を被告に告げた。右見積書には当初の契約と異なる高額の金額が記載されていたので、被告が異議を述べると、高橋はこれを持ち帰った。

その後同年八月ころになって、被告は、原告代表者から原告会社事務所に来るように求められ、そこで、前記見積書等を手渡され、代金の支払いを強く迫られたが、被告は代金額に異議を述べ、話し合いは物別れに終った。その後、原告より被告に対し、昭和五二年八月二〇日金二七六万九〇〇〇円(本件追加工事分)、同年九月二〇日一〇三万五九〇〇円、昭和五三年四月二〇日、同年五月二〇日、同年六月二〇日、同年七月二〇日各二七六万九〇〇〇円(本件追加工事分)の各請求書が送付されてきたが、昭和五三年六月三〇日に至って、代金総額を三二一三万二〇〇〇円とし未払代金を一〇一三万二〇〇〇円とする請求書が送付されてきた。

3  右2認定の事実によれば、本件本工事の請負代金は金二一〇〇万円であり、また、追加工事の請負契約は昭和五〇年一〇月ころ請負代金を金一〇〇万円として成立したと認めるのが相当である。

4  原告は、本件本工事については、当初簡単な図面を交付されこれによって概算見積額として金二三六九万六三〇〇円の金額を提示したが、のちに交付を受けた詳細な設計図によって見積りをすると相当な相違が出ることが明らかとなり、また被告より使用材料及び施工面積の増加の変更の指示もあったので後日実費精算することを合意したものであり、また、追加工事についても実費精算する約束であったと主張し、証人高橋堅造はこれにそう証言をしている。

(一)  しかし、当初簡単な図面を交付されただけであった旨の証人高橋の証言は、前記1認定の事実及び《証拠省略》と比較して、直ちに信用することができない。

(二)  また、本件本工事の当初の見積書であるとして原告の提出する甲第二号証は、本件訴訟が提起されるまで被告に交付されたこともなくその存在も明らかにされた形跡のない文書であって、その作成日として記載された昭和五〇年七月二〇日作成されたものかどうか疑問がある。

(三)  前記2認定にかかる当初の契約額二一〇〇万円は、前記1認定の二天門設計事務所の設計図に基づいて見積りをした通運建設の提示していた金額(見積書記載の金額から一割減額した金額)とほぼ同一の金額であり、二天門設計事務所作成の設計図に基づいて見積りをしたうえで約束された金額と認めても決して不合理なものとは考えられない。

(四)  実費精算とは、証人高橋堅造の証言によれば、本来、特別の関係がある者との間で建築費用を低廉にするため実費(実際にかかる費用に会社の経費を加えた金額)を請負代金とするもので、通常の請負代金よりかなり低額となるべきものである。しかし、本件で原告が主張する実費精算は、むしろ一定の限度を定めず要しただけの費用は支払う(本件では、予定よりも実際にかかった費用が多額になったのでその費用を支払えということに帰着する。)という意味での実費精算ということであり、被告が通運建設に見積りをさせたのちに原告と請負契約を締結するに至った前記認定の事実に照らすと、被告としては本件本工事について一定限度の予算額があったものと認められるのであり(このことは被告本人尋問の結果によっても認められる。)、設計変更あるいは材料の打ち合わせの際に実費で工事をするから当初の金額を超えることはないという趣旨で実費ですますという言葉が高橋の口から出たことは考えられないではないにしても、一定の限度を定めないで費用構わず要した費用に会社の経費を加えた金額をもって精算するというような意味での実費精算の申し入れに被告が同意したものとはとうてい考えられない(証人高橋の証言によっても、被告が費用構わず建築をしてほしい旨を依頼したような事実はうかがわれず、むしろ被告としてはかなりのちまで当初の金額でできるものと考えていたことがうかがわれる。)

(五)  また、追加工事についても、本工事に関する被告の契約の態度から考えて原告が主張するような一定限度の金額を定めず要しただけの費用を支払うという意味での実費精算の合意が成立していたものとは考えられない。

(六)  以上のような点から考えると証人高橋堅造の証言は、直ちに信用することができない(前記認定の事実及び証人高橋の証言態度に照らすと、高橋としては、被告と親しい友人でありなるべく立派な建物を建築したいと考え、多少の施工面積増加等があっても実費で精算すれば当初の金額で十分まかなえると考えて施工したところ、実際には見込みに反して多額の費用を要することとなり、他方原告代表者からせめられ大いに困惑しているものと推認される。)し、他に前記認定を覆えして原告の主張を認めるに足りる証拠はない。

三  前記二の2認定の事実によれば、本件工事及び本件追加工事代金は完済されているものと認められる。

四  そうすると、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 越山安久)

〈以下省略〉

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